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アピアピの誕生

コリン・マックフィー

オカ・ウィディアの誘惑

アピアピの経緯を書いておかなければならない。

「家を持つといいよ、安いよ」

というような話はよく聞かされた。行く度に世話になっていた現地の旅行ガイド、オカ・ウィディアもその一人である。

「でも、お金がたくさんかかるでしょ?買うだけでなく、維持管理はどうするの?」

と聞くと、

「おお、安い安い、簡単簡単」

と大げさに天を仰ぎながら、もう困ってしまうというように眉間にしわを寄せて笑った。あなたがた日本人から見れば、困ってしまうほど安くて、私に任せれば困ってしまうほど簡単なのだ、というわけである。しかしこの手の話はいいけど大変だろうなあ、という程度の感想でこちらは聞き流すし、向こうもそれほど本気で持ちかけたわけでもないので、その話ではずんだことは、ついぞ、ないままだった。

ところが、何度か通っていると、バリの人たちの天国的軽妙さとそれを支える自信に満ちた伝統社会のことがだんだんわかってくる。すると、この連中となら同じ天を戴くのも悪くないかな、というような気分になってくるものだ。
ある日カフェ「クブク」の桟敷席でまどろみながら、私もふとそんな気分に目覚めてしまった。この近くに家を建てたら、ひょっとしたら大変おもしろいのではなかろうか。
異文化との接触のスリルは相手がバリであればかなり長持ちしそうに思える。それに、世の中の役に立たないプロジェクトというのは今時貴重だ。

コリン・マックフィーの誘惑

その頃、「熱帯の旅人(コリン・マックフィー著、大竹昭子訳、河出書房新社刊)」を読んだことも、この思いに油を注いだ。
1931年から38年までバリでの生活体験を記録した本だが、今のウブドゥ周辺のバリ人の様子とほとんど変わっていない。このしぶとさは、バリの本質の重要な一面である。生活の細部は、現にいまでも日に日にものすごい勢いで変わっているのだが、どういうわけか、全体としてみると30年代と全然変わっていない。
それから、マックフィーのバリ人に対する接しかたが実に自然で人間的であるのも羨ましかった。こちらは、本当の植民地経営経験を持たない分だけぎくしゃくしがちだ。最後の最後はお金の威力で組み伏せて、淋しい思いを味わうことが、よくある。
ええい、この際どっぷり浸かってみるか。

メンバーを募集

おもしろいことは、徒党を組んでやるに限る。

というわけで、目論見を数枚の企画書にして会う人会う人に触れ回ってみた。案に相違して、バカにする人が少ない。むしろ、是非いっしょにやろうという人が多いのに驚いた。
言ってみるものだな、と思った。92年9月頃、マックフィーに遅れること約60年目のことである。

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