バリのレンガは、日本のレンガとほぼ同じ大きさだが、少し薄い。22×11×4.8センチが標準。その赤い色はバリの街並みの基調色である。観光客が最初に目にする空港ビルも、その大きな壁面の大部分を無目地のレンガ積みで飾りたてている。
レンガ工場は、ギヤニャールの東部とタバナン西部に集中している。
窯の前の庭土をそのまま掘り出し、そこで水と灰を混ぜて足でこねる。木製の形枠にいれて乾いたところで周りに整頓し、さらに天日で乾かした後、窯に積む。
窯は、3辺を囲む壁を古レンガで作っただけのもので、雨よけの屋根が申し訳程度にかかっている。積んだレンガの上から籾殻(または椰子殻)を盛大にかぶせて、火を付ける。
ここまでは、レンガの色はロームを黒くしたような、いわゆる肥え土色。焼き上がると、鮮やかな赤レンガになる。かきだした灰は、最初の土に混ぜる。レンガ工場には、すべてがそこで完結しているという心地よさがあった。
こんな焼き方なので温度も低いらしく、できたレンガはとても柔らかい。柔らかいので、積むのにモルタルは使わない。鑿と鉋と鋸と水を用いて積む。
見ているとまるで木の細工をしているようだ。きれいに面を出して、水をつけて根気よく擦り合わせて、こんな感じかなというところで、そっと手をはなす。すると、そこにレンガがピタっと納まって、左官さんの目が「よし」と頷いて、はい1枚おわり。
どうも、擦った時に出る粘土の微粒子が水に溶けて、接着剤の役割を果たすらしい。
驚くべきことに、石でさえこの調子で積んでいる。
ペネスタナン村にほど近いバツブラン村で産出される「パラス」という石は、火山灰が固まって凝灰岩になる寸前の石で、柔らかくて、流れるような地層の模様が美しい。大きさは30×17×6センチ。レンガより一回り大きい。
化粧材によく使われているが、これを積むのにもさっきのレンガと全く同じ「擦り合わせ」法が用いられていた。
こういう舐めるような手業と繊細な目が夥しく積み重なって、巨大な寺門や延々と続く塀を築き上げていると思うと、目がくらむようだ。
レンガや石に限ったことではない。バリの労働と生産の関係は、すべからくこのような感性のもとに成立している。