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椰子の木

椰子の木の幹には、年輪がない。輪切りにしたのを見ると、導管がまんべんなくぎっしり詰まっているだけで、ほとんど見た目の締りというものがない。それで、椰子の木の幹はラワンかバルサか、そんな感じの柔らかくて軽い材料だと思っていた。

ところが、実際に触ってみると、これがとても堅い。堅くてずっしりと重い。釘を打つのも大変な程だ。よく見ると、そういえば断面が竹に似ている。竹の茎の部分を中空部分にまでぎっしり充填したものと思えば、釘が立たないのも、重いのも道理だ。椰子の木の幹を柱にして、ひょいひょいと大スパンの屋根を支えている建物や、柱一本で重そうな方形屋根を傘のように載せている四阿をみて、心許ないなと思っていたが、これなら大丈夫だろう。

家が完成してからの話しだが、スイッチボックスを壁の上の方に取り付けようとしたことがあった。柱ではなくて、椰子の木を挽いた板でできた、いわゆる回り縁に木ネジで固定しようとしたのである。

はじめに、木ネジ用の穴をキリであけようとしたが、これがほとんど穴にならない。しようがないから、ハンドドリルを買ってきて続きをあけようとしたが、これも印がつく程度にしか歯が立たない。
ほうほうの体で、やっとこさ申し訳程度の穴があいたところで諦めて、今度は力づくで木ネジをねじ込もうとしたら、なんと、木ネジの方がネジ切れてしまった。後日、日本から買っていった木ネジで再挑戦した時にも同様であったので、これは決して木ネジの品質のせいではない。
ネジ切れた穴は使えないので、場所を変えて再びハンドドリルで根気良く穴をあけることにしてがんばっていたら、なんと、今度はドリルの刃先が穴の中で折れてしまった。

すべてを諦めて、最後にどうしたかといえば、再度場所を変えたうえ、釘を思いきりぶち込んで、これ以上はいらないで余った部分を横に折ってやっと固定したのである。いかにも不細工だが、椰子の木が相手ではしようがない。左様に、椰子の木は堅い。

アピアピの柱も椰子の木だ。12本で大きな屋根を支えている。従って頑丈である。真ん中の2本は、棟木までの高さが7メートル、そこまでの長尺物が手に入らなかったとみえて、下部6、70センチは幹の径にあわせたコンクリートの円柱を現場打ちで継ぎ足してある。むしろ、このコンクリートの柱の方が、何となく危なっかしい。
この柱を立てるときは、その重さを想像するとさぞかし大変だったろうと思う。ラーマは、その様子をわざわざビデオに撮ってあるそうだ。

椰子の木は硬いだけでなく、重い。水に入れても沈む。
強烈なスコールが降った後は、たいていどこかの椰子の木が雨の重みで倒れている。根っこが球状で転倒しやすいらしい。
これを私は風倒木ならぬ雨倒木と呼んでいるが、雨倒木で道路が塞がれて通行止めになることもある。直撃されるとたぶん車はぺっちゃんこだ。恐い。

着工前のアピアピの敷地内に、椰子の木が数本生えていた。何も知らない私が、風情があるから残してくれと言ったら、関係者だけでなく通り掛かりの人までが加わって、血相を変えて猛反対した。いま考えると当たり前だ。

堅くて重い椰子の幹は、建材や家具材として利用する。
あんなに堅いのに、大工さんは手斧とノミだけで、かなり複雑な加工をする。アピアピの螺旋階段も椰子でできているが、その手際よさには、恐れ入った。

椰子の実は、中のジュースを飲み干した後、殻を燃料にしたり炭にしたり、繊維を飾りに利用したりする。葉っぱは手際よく小箱に細工して日々のお供え物(チャナンサリ)の入れ物などに使う。椰子の木がなくては、バリの暮らしは成り立たない。

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