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国際免許

タマン・アユンで捕まった

タバナンのほうをうろうろしてウブドゥに戻ろうとしたら、道を間違えてタマン・アユン寺院に出てしまった。
それはよいのだが、出る前に、不運にも大通りで一斉検問に遭遇してしまった。旗をもったお巡りさんが何人かで通せんぼをしてバイクを脇に引き込んでいる。わたしもその流れで自動的に警察署の中庭に誘導されてしまった。そこは、大勢の若者たちとバイクとお巡りさんたちでごった返している。

まずい。
国際免許をもっていないのである。しかし、これにはちゃんとした理由がある。

かなり前のことであるが、レンタカーの「カタナ(スズキ・ジムニーの現地バージョン)」を運転していたら、どういう理由だったかお巡りさんに止められたことがあった。なんの後めたいこともないので、胸をはって国際免許を見せると、「これは一体なんだ」ときた。これは日本政府が発行したインターナショナル・ライセンスである、と主張しても、なかなか主旨が通じず、「ほかにライセンスはもっていないのか」というので、日本の免許証を見せたらそれでOK、という顛末である。それ以来ばかばかしいので、国際免許はあえて取得せずに運転することにした。

でも、こんな理由は通用しないでしょうねえ。これはまずいことになった。ひょっとして拘留などされたらやっかいだなあ、だがそれも経験でおもしろいかも、とどぎまぎしていたら、「こっち、こっち」とひとりのお巡りさんから手招きされた。

「日本人? 国際免許を見せなさい」
知らないふりをして、日本の免許証を提示した。
「これは何ですか?」「日本の免許です」
「国際免許は?」「持っていません」
さあ、どうなるか、と思っていると意外にもその若いお巡りさんはわたしを優しくさとしはじめた。
「インドネシアでは、日本のローカル免許は有効ではありません。わかりますか? インドネシアではインドネシアの免許か国際免許を持っていないとバイクの運転はできません。わかりますか?」「わかります」
「それでは、次に来るときにはちゃんと国際免許をとってきてください。わかりますか?」「はい」
「ウブドゥまで帰るのですか? 今回はleaveしてあげるから、気をつけてね」「はい」
というように、前回とはま反対の対応で共和国警察の近代化ぶりを見事にわたしの心に焼き付けて、彼はにこやかにバイバイと手を振った。

帰ってきて、実はこんなことがあったと隣のホテル「ウマ・マンディ」のダナに報告したら、そりゃあ運がよかった、普通は10万ルピアくらいの罰金だけどね、それもお巡りさんのお小遣いになるんだけどね、よっぽどいいお巡りさんだったんだね、と感心してくれた。

たしかに、わたしは運がよかったのである。次回からは、まじめに国際免許を取得して来ることにしよう。あの優しいお巡りさんへの、せめてものお返しである。

ウブドゥでも捕まった

次の日、両替をするためにウブドゥの街に出かけた。

ウブドゥは最近一方通行が多くなって面倒だねえ、と言ったら「大丈夫、バイクは一方通行は関係ない」とマデがアドバイスしてくれた。これはどうも、バイクは一方通行違反をしても一般的には捕まらない、という意味であったらしい。

一方通行のウブドゥ大通りを順方向に走って、いつもの両替店へ着いたのだが、ついうっかりパスポートを忘れたことに気がついた。安心できる店なのだが、ここはパスポートが必要なのである。
それで、もう一度同じ道を引き返そうとしていたら、ウブドゥのセンターで、警察官に捕まってしまった。ここは一方通行なのだという。ほかのバイクも同じ方向に走っていたのだが。

ここ30年ほどの間に、お巡りさんに呼び止められたのは4回目である。そのうち、この2日間で2回。不運このうえない。
1回目などは、ウルワツの丘の上で駐車違反とかで捕まってその場で罰金を徴収されたのだが、その時は免許証を見せろとさえ言われなかった。

「免許証を見せなさい」
パスポートといっしょに、今回は日本の免許証さえも忘れてきた。正直にそう告げると、道路を渡った先の警察の建物に連行された。
日本風にいえば15、6畳の広さの涼しい部屋である。机がふたつあって、ひとつの事務机では不機嫌そうな係官が座って、なにやら書類に書き物をしている。こっちを一瞥しただけで、ほとんど興味を示さない。

連行した警察官はもうひとつの机の横で「ここに座って」と椅子をすすめてくれた。ヘルメットをはずすのに手こずっていると、親切に手を添えてくれる。しかし、言うことはきつい。

「あなたは、ふたつの違反をした。一方通行を反対から走り、免許証も携帯していなかった。したがって、車検証を裁判所に送る。すると、罰金が決まるのに1週間ほどかかる。罰金は違反ひとつにつき25万ルピアほどだから、合計50万ルピアくらいになるだろう」

一応、バイクは一方通行の対象外だと思っていたこと、免許証は(日本のではあるが)部屋に戻ればあること、と主張したけれども、当然ながら聞く耳をもってくれない。

そのうちに、「いま、いくら持っているか」と聞いてきた。あ、そうか、そういうことだったのか。ほかのバイクを止めないで、わたしを狙ったのは、外国人だからお金を持っていそうだったからか。
それなら、こんなラッキーなことはない。わたしは、現金がなくなったから両替店に行こうとしていたのだ。

ポケットをさぐると、10万ルピア札が1枚と、あと2、3万ルピア分の小額紙幣が出てきた。両替用の日本円は、まさか見せるわけにはいかない。
「これが、わたしの全財産である」
そのとき彼は、あてがはずれて困ったような顔をして、両手で涙をぬぐうような仕草をした。
しかし
「ほんとうにこれだけ?」
と念押しをしながらそれを全部受け取ると、その手で握手を求めてきたのである。
もうひとりの係官は、とうとう書類から全然目をはなそうとしなかった。
それで、終わり。

あとで気がついたのだが、罰金がわりのわいろの相場は10万ルピアとウマ・マンデイのダナから聞いていたのだった。だから、まんざら少なかったわけでもない。あの警察官は大げさに落胆してみせたが、彼に借りができたのではないと思うことにした。

ともかく、インドネシアの警察は、まだ思ったほどには近代化されていない、ということがよくわかる経験であった。

なお、参考のために、現在の両替相場は1,000円=11万3千ルピアほどである。

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