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政変その2

1999年10月

さて、この政変でスハルトが退陣し、その後を受けたハビビも517日間で辞めた後、99年10月、国民協議会選挙で闘争民主党のメガワティと民族覚醒党のワヒドとが一騎討ちとなった時のことである。
ちょうどこの時私は我が家に滞在していた。バリ島は、メガワティのお父さんのスカルノとは縁が深いところで、メガワティのシンパが多い。
選挙前から、闘争民主党のシンボルカラーである真っ赤な旗を掲げて、景気付けに走り回っている人たちが大勢いたが、僅差でメガワティが破れたことが伝わると、これに一気に火が付いてしまった。
今回は、「えっ? 何かあったの?」とはいかないで、民衆レベルの政治が燃えたのである。
シンガラジャでどこかの公館が焼かれている、いや、デンパサールでも州政府の建物に火が放たれて、政府高官の誰某が逃げ出した、サヌールは火の海だ、というような情報が飛び交って、「そりゃ大変だ」ということになった。こうなると、ウブドゥにじっとしていることができなくて、何人かでジープにとび乗って、それとばかりにデンパサールにくり出した。

デンパサールは火の海

市内に近付くと、いたることろで火の手が上がっているらしく、夜空に何本もの真っ黒い煙りがもくもくとたなびいているのが見える。沿道には、煙りの下で信じられないほどの数の人が右往左往している。見なれた赤い旗がいっぱい振られている。
市内にはいると、道路のまん中に積み上げた古タイヤや木の枝が炎を吹き、火の粉を散らして周囲を照らしていた。信号のポールはことごとくねじ曲げられて、信号機が路面にたたきつけられている。交差点に面したポリボックスはひっくり返されて、これもまた燃えている。
そういえば、ここに来るまでお巡りさんをひとりも見かけなかった。そのことを指摘すると、一緒に来た村の若者が「そりゃそうだよ、お巡りさんも恐いもの」と笑った。そりゃそうだ。
といっている横を、1台のジープが、カーキ色の制服を着たグループを乗せてすり抜けた。一瞬ドキッとしたが、どうもサヌールにスハルト一族の誰かが経営するホテルがあって、軍隊だか私兵だかわからないが、その警護に駆けつける一団だったらしい。これも、「そうらしい」という噂にすぎなかったが、確かに暴虐を働く群衆には目も向けないで通り過ぎた。

暴動はお祭りだ

しばらく市内をうろうろしたうえで、家路についた。
途中、市郊外にさしかかり、バツブランからシンガパドゥに抜けるあたりで、人影もまばらになった頃、道路の上で走り回っている一組の親子を見た。若いお父さんが、火のついたタイヤをワイヤで引き回し、その後をあどけない息子が追っかけている。ふたりとも、それはそれは楽しそうに、キャッキャとはしゃぎながら、あっちへ行ったりこっちへ来たりしている。
おかげで、こちらは行く手を阻まれてしばらく立ち往生したのだが、少し不謹慎かもしれないけれど、なにか救われた気分がした。

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