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ジェゴッグ

バリ島の踊りの伴奏は、いわゆるガムラン楽団。
ガムランは、血沸き肉踊る音楽で、踊りがなくても全然飽きない。ガムラン楽団には青銅のガムランと竹のガムランとがある。
普通は青銅のガムランで、これは青銅製の鉄琴(というのも変だが)、銅鑼、トロンポンという大小のおっぱいをずらっと並べたような楽器、それに太鼓と笛で構成される。

竹のガムランは“ジェゴッグ”と呼ばれ、大小の竹製の木琴(これも変だが)のオーケストラで、青銅に比べると聴く機会は少ないものの、迫力はこっちのほうがはるかに大きい。

ジェゴッグは、最近はウブドゥに楽団ができていて驚いたが、もとはバリ西部のヌガラにしか楽団がいなかった。「ヌガラのスワル・アグン楽団はいいよ」と聞いて、ぜひ生で聴かせてもらいたいと思い、車で訪問したことがある。
事務所に行って「明日、ウブドゥのAPI-APIに来てもらえないか?」と聞いたら「いいよ」とふたつ返事。翌日夕食時に待っていたら、トラックに20人ほどの団員が乗ってやって来た。昨日はうっかりしていたが、あいにくとスワル・アグンはヨーロッパ公演だかなんだかに出発する日だったので、村の別の楽団が替わりに来ました、ということだったが、それはそれで堪能させてもらった。これがわたしのジェゴッグ初体験である。
海外公演と、どこの馬の骨とも知れない家のお座敷とが、同列であることにも感銘を受けた。

その後、ウブドゥのはずれにできたカフェのオープニングイベントに「スワル・アグンが来る」という話しを聞きつけたので、招待状はなかったが行ってみた。
カフェといっても、まわりはぐるっと一面の田んぼという場所である。小雨が降っていた。カフェの中は、客と団員が入り乱れて開演までの暇つぶしの最中。たまたま座った隣が団長さん。「この前は残念でした」「ああ、あんときゃ、ごめんね」
というような話しをしていたら「さあ、そろそろ始めるか」という段になった。団員たちが駆けて行った先には、すでに楽器がしつらえてあって、いきなり演奏が始まった。ずっと向こうの田んぼの中である。音につられて、お客さんたちも走っていく羽目になった。
刈り取りが終わった田んぼを何枚か進んでいく沿道に、重油のランプが点々と滑走路の誘導灯のように置いてあって、われわれを導いてくれる。その先で、客もいないのに、かれこれ80名ほどの楽団が二手にわかれて演奏の真っ最中である。しかも、雨足はさっきよりも強くなっている。
団員よりもはるかに数の少ない招待客は、暗闇のなかで最初は周りをうろうろしながら鑑賞していたが、やがて目が慣れてくる頃には、演奏の迫力に誰もがトランス状態になり、楽団に混じって木琴を叩くもの、低音楽器の下に潜り込んで空ろな目で雨宿りしているもの、など、もう全部が渾然一体となって、はちゃめちゃな空気の中を音楽が渦巻いた。どのくらいの時間か忘れたが、とにかく最初から最後まで休みなく、二手の楽団がある時は一体で、ある時は掛け合うように、目くるめくような音を爆発させ続けたのである。

雨に濡れた体から出る湯気が、あたり一面にもうもうと立ち上がっていたことを、よく覚えている。
これが、わたしのジェゴッグの2度目の体験。

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