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地図の縮尺

「わたしは1,000は得意だけど、1万は苦手です」

このせりふは、トラック競技のことではなくて、都市計画のプランニングのことを言っている。
1,000分の一というような地図の縮尺の数字なのだが、都市や地域を計画する視点や作法は、この数値によってずいぶん違う。

「瀬戸内の連携」というような話題では、50万分の一程度の地図が使われる。
大阪湾奥から関門海峡までの東西が約80センチにおさまる。高速道路のサービスエリアでもらえる地図も、この前後の縮尺が多い。
都市の配置、高速道路網や国道網、鉄道による地域のつながりなど「国土」の骨格的な構造がみてとれる。

県単位の地図では、およそ20万分の一が主流。山脈や台地、水系などの大きな地形と、集落や都市との関係が見えるようになる。

市町村単位では、5万から1万分の一の縮尺が使われる。こうなると、ほぼ日常眼にするとおりの地形が読みとれる。都市内部の土地利用の構成や各地区の性格なども、なんとなく想像できる。

2,500分の一になると、大字とか小学校区などが対象となるが、建物の混み具合とか、道幅とか、市街地の環境の質がわかるようになる。
住宅地図は2,000分の一程度のものが多い。ここでやっと、そこに住む人の顔が見えてくる。

20万分の一以下というような小さな縮尺で見ると、巨視的な地域の構造がよく理解できる。そのかわりに、その構造が強化あるいは改編できただけで「地域がよくなる」という錯覚に陥ってしまう危険がある。
世の中にはそういう錯覚にもとづいたビジョンが山のようにある。

逆に、大きな縮尺だけで見ていると、その背後にある、より広い範囲の環境とのつながりが見えないまま、ひとりよがりの計画になってしまう。
たとえば、町の計画をたてるのに、その町の範囲だけ切り取った地図をベースにしているのをよく見かけるが、これはいけない。せめて、隣接する地域のはいった大きな地図を用意すべきである。

だから、理想は1,000の得意な人が5万を手がけることであり、20万に慣れ親しんだ人が1万の計画にコミットすることなのだが、現場ではなかなかそうさせてもらえない。

峠から見える景色が好きだ。すぐ横にいる人の息づかいから、眼下に広がる市街地、遠望される山の稜線までが連続して眼に飛び込んでくる。この手元のディテールの壮大な積み重ねが、見渡す限りの世界の構造を形作っているのかと思うと、くらくらしてしまう。
そのくらくら感を忘れないことが、どの縮尺の計画をつくるにも必要なことだと思う。

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