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橋の上の商店街

ガラタ橋

イスタンブールの金角湾は、1453年、山越えしたオスマン軍の70隻の戦艦が踊りこんで、総攻撃の火蓋を切った舞台である。壮絶かつはちゃめちゃな戦闘の模様は「コンスタンチノーブルの陥落」(塩野七生)に詳しい。この湾の入り口にいま、ガラタ橋がかかっている。

ガラタ橋(mykonosさんのブログから)

もとあった木橋を1902年に架け替えた二階建ての浮橋で、92年に建設された現在の跳ね橋も二階建てになっている。二階が道路で、一階が飲食店街。この写真をはじめて見たときから、気になってしようがなかった。

ベッキオ橋、レアルト橋・・・

橋の上を商店街にした例というのは、世界を探してもそんなに多くない。

有名なのはまず、フィレンツェのアルノ川にかかるベッキオ橋で、14世紀中ごろに完成した。ベッキオは「古い」という意味で、文字通り古い橋である。
三連の石造アーチ橋で、橋上の両側に三階建ての商店が並び、中央部に川を見下ろす広場がある。

ポンテ・ベッキオ(google street-viewから)

話はそれるけれども、このベッキオ橋のすぐ上流右岸側に、ウッフィツィ広場というのがあって、周辺の地盤から少し低い、いわゆるサンクン広場になっている。実は、ここからそのままアルノ川の方に歩いて行くと、堤防を穿ったトンネルを通って川面に出る。そこには、小さな桟橋があって、わたしが見たときには、小船が停泊し、パラソルを立ててだれかがコーヒー(たぶん)を飲んでいた。
日本ではなかなか見ることのできない光景だ。アルノ川はたびたび氾濫をおこしたので有名らしいから、なおさらである。

赤丸に注意(googleマップから)

もとにもどって、橋の上の商店街はこのほかにも、ベッキオ橋をモデルに18世紀後半に建造されたパルティニイ橋(イギリス・バース)、ベッキオ橋より少し古いクレーマー橋(ドイツ・エアフルト)、16世紀にできたリアルト橋(イタリア・ベネチア)などがあるが、それ以上は思いつかない。

リアルト橋は、橋詰のカフェが実に魅力的である。同じグランド・カナルに架かる下流のアカデミア橋のたもとにも、もっと規模の大きいオープンカフェがあった。いずれも行きかう水上バスやゴンドラを眺めながら過ごせる。こういうスペースも、日本ではなかなか見ることができない。

リアルト橋の橋詰

さて、橋の上の商店街というのは、いずれも街の真ん中にあって、古くて、大勢の人でにぎわう観光名所であることが共通点だ。つまり名所になるくらい珍しいのである。

橋上市場

日本でも、岩手県の釜石に有名な橋上市場があった。58年に露店を集めて建設されたもので、全長110メートル、やはり観光名所になっていた市場である。
65年の河川法改正以後、不法占用状態となって、ずいぶんいじめられているという話を聞いていたが、調べてみると、03年1月に撤去されていた。残念なことに、橋上商店街はこれで日本から消滅したわけである。

橋上市場(マルチメディア館男爵さんの投稿から)

こういうことが気になるのは、橋の上というのは本来にぎわいの場だと思うからだ。
あっちとこっちの人が出会う場であり、異界同士の取引が生まれる場でもある。さらに、川の上には何もないから、はなはだ眺めがよい。
そうであれば、お店やカフェや広場がその上にあってもよさそうに思うのだが、どういうわけか、ない。

織田信長がつくった安土道路には、途中に「畳4枚の幅で長さ180畳」の立派な木橋がかけられていた。その橋の中央には、通行人のために「一軒のはなはだ快適な休憩所」があったという(「南蛮史料の発見 よみがえる信長時代」中公新書、松田毅一著)。
そこで休んでお茶を飲んでみたかったと、切に思う。

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