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歩道の舗装

カラー舗装

商店街の通りに「カラー舗装」と称して模様を描くことがはやりはじめたのは、いつ頃からだろうか。ときに、その饒舌さと軽薄さに辟易することがある。

世界の歩道の舗装事情を体系的にご紹介できるほどのストックがあるわけではないが、路面に耳目を集めようとするような例は、それほど多くないと思う。

世界の歩道から

バルセロナのランブラス通りは、都心のカタルーニャ広場から海辺に近いコロンブス広場までをつなぐ大通りである。延長約1.5キロ。車道が両サイドにあって、中央部分が広い歩道になっている。
この上に、小さなお店が点々と並ぶ、なかなか楽しい通りである。バルセロナを代表する観光スポットになっているのだが、路面の随所に、デザイン陶板が埋め込んであったり、交差点に巨大な模様が描かれていたりして、それがまた隠れた名所になっている。
このモザイクタイルによる大きな模様は、巨匠ミロがデザインしたもの。これはこれで、力がはいっている稀な例のひとつ。そんなに力まなくてもよいとは思うが、ここまでくればまあ文句はない。それに、それ以外の部分はとても素っ気ないタイルでおとなしく統一されていたのである。

ランブラス通り(google street-view から)

同じスペインのグラナダでも、歩道に注目してみたが、こっちはかなり自己主張が抑えられていた。黒い玉石を町中に敷き詰めた非常に美しい舗装で、よく見ると模様になっているのだが、よく見ないとわからない。ときどき、広場などの中では白石をまじえて幾何学模様になっている。

グラナダ・アルバイシンの歩道(同上。googleさん、ありがとう)

宮殿などの床をデザインしまくった例は世界中に多いものの、同心円とか格子といった単純な幾何学模様の組み合わせが大半ではないだろうか。それも、壁や天井がそれ以上に華々しいので、床がとくに目立つというものではない。

明時代の庭園で、上海の二大観光名所のひとつといわれる豫園も、小さな玉石を丁寧に敷き詰めた床はその造形密度の高さに驚くのだが、堂屋や置物がそれ以上なので、あまり印象に残らない。

豫園の遊歩道

ついでにいえば、有名なパリのベルサイユ宮殿の庭の遊歩道はかなりの広幅員であるが、なんの変哲もない土の舗装である。

世界遺産になっているマカオの旧市街地の商店街の路面に、カラータイルで鮮やかな模様を描いているのを目撃したが、なんとなく違和感をもつ光景であった。

マカオの商店街

気のいれかたが、品格を露呈することになる。周辺の町並みを磨くことを放棄して、路面に安直な化粧を施してすませるのは、あまり品のよいことではない。

「まわりは見ないでね、下を向いて歩いてね」

と言っているようなものではないか、と思うのだがどうだろうか?

摩天楼の足下

北米の都市では、ダウンタウンから一歩外に出ると見渡す限りの低層住宅地、というようなさっぱりした構成になっていることが多い。それで、フリーウェイから都心を目指すと、はるか彼方から摩天楼群を望みながら近づいていくことになる。
それぞれのビルは、スカイラインも個性的ながら、外壁の色彩もピンクとか紫とか金色とか思い切って派手にできている。近づいて窓や庇の形が認められる頃には、その豪華絢爛さにあきれてしまう。

あの足下はさぞかしキンキラキンに飾り立ててあるのだろう、と思って街にはいると、今度は意外に落ち着いたたたずまいに、はっとすることが多い。
とくに、広場や歩道における禁欲的なデザインには目を見張るものがある。たとえば紫色の超高層ビルのエントランス広場の舗装が、コンクリートの鏝仕上げのままだったりする。

ニューヨークの摩天楼の下

ニコレット・モールとパセオ・デル・リオ

ミネアポリスの都心にあるニコレットモールは、およそ40年前にできた。
中央の車道が蛇行した写真は、造園デザインや商業デザインの教科書に繰り返し紹介され、おそらく世界でもっとも有名なオープン・モール商店街のひとつである。
ところが、その歩道の舗装はモノトーンに近い淡い色調のタイルで、大きな格子模様に貼られているのだが、よく見ないとわからないくらいおとなしい。

二コレットモール(ジョージさんのブログ「Smoko Time!!」から)

南部の都市サンアントニオにあるパセオ・デル・リオ(スペイン語で川の散歩道)は、こちらは世界でもっとも有名なリバー・ウォーク。
都心を流れる延長1.5キロほどの堀込み水路に沿った細い遊歩道なのだが、沿道にホテル、ショッピングセンター、レストランがひしめいて、朝から晩まで大勢の観光客がどんちゃん騒ぎを繰り広げる場となっている。
わたしはかつて、このリバー・ウォークをひたすら下を見ながら歩き通したことがあるのだが、それは、この道の高名さに比べてあまりにも粗末な舗装に、心を打たれたからであった。
カフェの前などで一応申し訳程度にレンガを並べたりしてはあるものの、ちょっと離れると、30センチ角のコンクリート平板を無造作に置いてあるだけ、という区間もけっこうあったのである。

サンアントニオのパセオ・デル・リオ

この舗装の無頓着さは、

「下じゃなくて、看板やテントや街路樹を見てちょうだいね」

と言っているようだった。
別に、粗末なのがよいとは思わないが、下を向いて歩いてほしくないというメッセージは、それはそれで気持ちのよいものであった。

これは、決して「歩道のデザインが不必要だ」と主張したいのではない。
歩道には歩道のデザインが必要で、そのデザイン密度は高いほどよい。しかし、そこではつねに、周りの町並みとつりあったものか、周りの町並みを盛り上げるものとなっているか、という緊張が必要だ。

夢々そんなことはないとは思うが、

「お店には補助金がつかないが、カラー舗装には補助金がでるから」

という理由で歩道だけ立派にする、というようなことは万が一にもないことを祈る。

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