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版築

製作途中の土壁

版築とは

版築(はんちく)というのは、土をたたいて硬くする工法でつくった壁や土塁、またはその工法そのものをいう。
ネットで調べると、神戸芸術工科大学に「版築研究所」というのがあった。そこのサイトに「版築とは」というわかりやすい解説があったので、以下にコピペさせていただく。

版築とは、堅固な土壁をつくるために用いられる古来から伝わる工法である。
日本では土塀や地盤改良、古墳の墓室や大寺の基段などに用いられており、一般に土、石灰、にがり、魚油などを配合する。型枠に土を入れてそれを半分のかさになるまで叩き締めて土を固める。押し寿司のようなつくりかたである。
1層は50mm程度で型枠が一杯になると上へ型枠を足すか、型枠を上にスライドさせて壁体をつくっていく。
版築造の場合、構造は塗壁のように木柱でなく、土そのもが構造体となり、版築壁そのものが外壁材、内壁材、全ての役割を果たすのが特徴である。
中近東やブータンなどでは建築に使われており、いづれも耐用年数が長い。
日本では建築工法としては数少ない。
現在深刻となっている地球環境の問題やシックハウス問題に有効な素材であること、調湿調温機能があることなどから、ここ数年で版築造は見直され、海外だけでなく、日本においても積極的に取り入れる試みがなされている。

版築の壁を作ってみた、その理由

家の脇にある焚火小屋の板壁が腐ってしまったので、取り去って、かわりに版築の壁を作ることにした。
版築にしようと思ったのには、いくつか理由がある。

まず、材料が手近にあったこと。裏を掘ったら、1mほど下から粘土状の土が出てきた。ちょっと壁をつくるだけなので、別に石灰やにがりをいれなくても、この土だけでなんとかなるのではないか。納屋に使っていない瓦がたくさんあるので、これを間にはさんでやろう。ほかに何がいるか? 何もいらない。
次に、版築はなんとなくエコと思えること。イギリスのウェールズにセンター・フォー・オールタナティブ・テクノロジー(略称CAT)という環境学習施設があって、ヒッピーあがりの人たちがなかなか本格的にエコなライフスタイルを実践しているらしいのだが、そこの主要建物をつくるのに、セメントを用いると余計なエネルギーを使うことになるというので、版築でやったと宣伝していた。たしかに、これには一理ある。版築研究所の解説では、調湿調温機能もあるというではないか。

また、以前から版築にあこがれていたことも理由のひとつである。重伝建地区の中にある武家屋敷の土塀などを見ていると、その質実剛健を絵に描いたような迫力に感銘を受ける。先般京都の嵐山にある天竜寺を訪ねた際に、実は雲龍図を見にいったのだが、山門の脇壁の裏側が、むしろひときわ印象に残った。巨大な、しかも荒っぽく仕上げた土壁なのだが、なぜか目頭が熱くなるようなかわいらしさがあった。それが版築だったのである。版築の土塀の存在感、潔さ、重厚さ、それでいて色っぽいところなどは、いよいよあこがれの的である。このことは、ぜひ人に伝えたい。版築はいいよお、と言うためには、ひとまず自分で体験してみよう、というわけだ。

もっと重要な理由がある。それは、これ以上そぎ落としようがないくらい、ローテクな工法であること。万里の長城のある区間を修復するという映像をテレビで見たことがある。レンガの壁の間に土をスコップでまき、その上を”タコ”を持った3人が並列になって、ニコニコしながらリズミカルに行進していた。多少根気を要するかもしれないが、これなら自分にもできる。

どうやって作ったか

版築の事例写真をいろいろと眺めてみると、おしゃれなものが多い。壁厚も20cm程度と薄くできている。版築も、高密市街地の中で面積効率を高く、工期を短く、かつ性能を高くという現代の建築工法体系の中に組み込まれているのである。その結果、せっかくの版築の迫力が薄まっているように思う。

さて、わたしの場合はどうか。まず、面積効率は低くてよい。田舎の焚火小屋であるから、周囲の空間は壁厚を切り詰めねばならぬほど精緻ではない。当然ながら工期はいくらかかってもよい。性能は問わない。それまであった腐った板壁のかわりであるから、もともと荷重がかかっているわけでもないし、風除けになってくれればそれでよいのである。
そこで、型枠を用いないで、手でこねた粘土をボールにし、ぐいぐいと親指で押し付け、木槌で叩きながら整形していくという方法をとった。20cmかそこら積み上がると、途中に適当に瓦をはさんでいく。乾いた後の粘土の収縮を極力抑えるために、できるだけ水を使わないようにした。

これを、版築というのは正確でない、といわれるかもしれないが、気にしない。
基礎には、石を並べた。「版築のつくりかた」などというサイトでは、中に鉄筋をいれることが奨励されていたりするが、それは採用しない。おそらく伝統的工法ではそういう補強はいれていないだろう。わたしの場合は、壁自体を湾曲させて、倒壊を防ぐことにした。

作ってみてわかったこと

粘土は突き固めると容積が減るので、思った以上に大量の資材が必要である

ユンボで掘った粘土を、軽トラがよたよたするくらい(おそらく1トンはあったか)載せて、これくらいあれば大丈夫だろうと準備したのだが、たかだか幅2m、高さ1.8m、厚さ30cmほどの壁を作るのに、これでは全然足りなかった。
ちなみに、この量は半端ではない。軽トラからスコップで下ろすのに大変苦労した。ふうふう言っているところへ、たまたま運よく区役所のK氏が来訪したので、二人がかりで下ろしたのだが、それでもそれだけで1日が終わった。
2台目を追加するのに、心の準備が必要だった。

突き固めるのは大変しんどい

土を運ぶのが大変なだけではない。
いかにローテクとはいっても、一言で「土を突き固める」といっても、やってみるとけっこう大変である。
山にした粘土を、スコップですくってプラスチックの船にいれる。それをヘラでかき回して手ですくって両手でこねてボール状にする。さらにそれを製作中の壁にぶつけて指で押し、木槌で叩く。いずれも力技である。根気と同時に、体力を要する。
歴史的知識皆無のまま想像すると、小舞壁はその手間をなんとか少なくしようとして発明されたのではないか。水をまぜて鏝でぬれる程度にやわらかくした赤土をさらさら塗っていくという工法の軽快さは、下地の竹格子を組まねばならないという手間を補って余りあるはずだ。
わたしのわずかな体験にもとづいて言うと、同じサイズの板壁を作るという大工仕事に比べて、版築という、どちらかといえば土木仕事でやるとおよそ7倍程度の労力を要する。

瓦は意匠のためだけではない

間に瓦や石をはさんだ土塀をよく見かけるが、あれはカッコいい。と思って、飾りのつもりで瓦をはさむことにした。しかし、こういった材料を間にはさむのは、意匠のためだけではないということが、実際に作業をしてみるとよくわかる。
縦方向のクラックが連続しないように遮断する効果ももちろんある。ところがそれだけではなく、間に瓦のような大きくて固いものがあると、上からの力が分散するために、土を高く積んでいっても下の方がぐにゃっとはらんだりしない。それで作業効率が格段に高まるのである。その証拠に、瓦は必ず水平に使ってある。たまに斜めや垂直に使ったのを見かけることがあるが、あれは意匠ですね。
瓦をはさんだことで、今回のように型枠を使わないで叩きながら積むのに、下がまだよく乾いていなくても難なく積めた。何事も、やってみなくちゃわからない。

以上で、版築体験記おわり。

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