巨石を立てた。
“巨”とは言っても2トン強の重量である。ただし、秤にかけたわけではない。1.5m×1.0m×0.6m×2.5トン/立方mで、だいたい2.25トンと計算した。
大阪城の蛸石は130トンと推定され、レバノンのバールベックにあるジュピター神殿の台座に使われた石で最大のものは970トンあって、オーパーツの代表のように言われている。
最近発見されたシベリア南部ゴルナヤ・ショリアの遺跡では、2,400トンの石が据え付けられているらしい(もっとも、あまりの巨大さに人工物かどうかには疑義があるようだが)。上には上があるものだ。
これらに比べると、わたしのは砂粒のようなものである。
しかし、日頃せいぜいチェーンブロックで吊れるほどの石をコロコロさせている我が身から見ると、2トン強というのはやはり巨石だ。
この石は、かなり前から家の敷地の端っこの方にあるカキの木の下に人知れず寝そべっていた。
どこかから、使うあてもないまま持ってきて転がしておいた記憶があるのだが、それがどこからだったか思い出せない。その程度の存在感の薄い石であった。
つい最近、ふとこの石に興味が沸いた。
いま作っている母屋の第二の玄関の脇に何か重量感のある壁のようなものが欲しかったのだが、これはぴったりではないか。板や瓦で壁を作る手間もいらなくなるし、大きさもちょうどよい。
ただし、カキの木の下からおよそ50mの距離を運んで、しかも正しい位置に立てねばならない。
エジプトのクフ王のピラミッドには、2.5トンの石が230万個積まれているという。よし、その1個分を運んで立ててやろう。あっちは一番近い石切り場でも300m、こちらはたかが50mである。
まず、うちのミニ・ユンボ(小型のバックフォー)でいじってみた。
持ち上がらない。
石の向こうをバケットで引っ掛けると、ちょっとは浮かせることはできる。浮かせたまま、こちらに引っ張ってバケットと排土板とで挟むと、ユンボと一体にはなる。一体になったところで、そろりそろりとキャタピラを回すと・・・石が動く。
ユンボは、石の重みで思い切り前のめりに傾くが、そのままズルズルと移動して、やがて見事現場に到着した。
そこで頭を向こうに置いて、引っ張って立てようという算段であるが、その途中で姿勢を自由に調整できるわけではないので、寝かせる位置を慎重に定める。位置が定まったら、ちょっと頭を引いて浮かせ、下に電信柱を半分の長さに切ったのを枕として敷く。敷いてから頭を降ろすと、お尻が浮く。
ここまでは平らな地面の上で作業を行い、寝かせてから石の手前に、落とし込むお尻の形にあわせて穴を掘る。
さらに横方向の目印になるよう、穴の手前に杭を3本打ち込む。
これで、準備体勢ができた。
立てる。
頭を少しだけ持ち上げて、電柱の枕の上をじわじわ手前に動かし、お尻が穴の上に斜めに滑るように落とし込む。
お尻が穴の底についたところで、頭をこちらに引っ張ると、だんだん全体が立ってくる。垂直になったら、バケットで押さえておいて、用意しておいたグリ石を回りに投げ込み、突き固める。
穴を掘った土を埋め戻して均して・・・終わり。
立った石は、びくともしない。
どうやって運ぶか、どうやって立てるか、かれこれ1ヶ月近くも考えを巡らせていた。実際にやってみると、あっという間にできてしまった。案ずるより生むが安し、である。ただし、次もうまくいく保証はない。わたしの工事は、いつもビギナーズラックの積み重ねである。
翌日、たまたま石の彫刻家の石丸勝三さんに会ったので顛末を報告すると、「よくやったね」と誉めてもらった。さらに教えてもらったのは、石の職人さんの技術。
大きな石を、梃子でちょっと浮かせて下に小石を投げ込む。すると大石が浮くので、小石を軸にして大石がくるくる回せる。こうやって、たいていの石なら重機など使わずひとりで好きなところに持っていくのだという。「庭職人などは、これができないと話しにならん」というのが石丸さんの解説である。
想像して思わず「かっこいぃ~」と叫んでしまうような光景であるが、真似はしないでおこう。