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Wikipediaを散歩してみた

はじめに

言っておきますが、これは暇つぶしの、どうでもよい、他愛のない散策記録です。
ふと思いついてWikipediaの中を散歩してみたところ、いつもお世話になっているWikipediaの背後に、とてもためになる世界を発見した、というお話し。

歩いているうちに、コミュニティの進化とそのための試行錯誤、帰納的にルールを蓄積していくやりかた、それを行うおびただしい議論の場、など端的にいえば民主主義の意味、自由の意義がネット社会において再構築されていく現場を目撃してしまった、というような思いにかられました。いきなり硬い口調になったのは、それで興奮してしまったためです。
興奮ついでにもっといえば、Wikiというコラボレーションツールを用いて、巨大な複雑系としての協働を許し、そこから新しい世界をつくりだしているような印象、まさに“創発(emergence)”ですね。もっといえば、ルールをこと細かく解説する姿勢、いや、解説というよりも説明することを通して自問していく姿勢に、ほとほと感銘をうけました。

ルールの解説

そんなことよりも、見たことをそのまま報告します。
たとえば、ルールの解説。
「Wikipedia:腕ずくで解決しようとしない」という記事があります。その中で「ルールの悪用や類似の悪用の仕方として、以下のような例があります」として、縷々列挙しているなかに、こういう例をあげていました。

法律家ごっこ
ルールの悪用の代表例として、法律家ごっこがあります。方針の精神を無視して方針の表面上の字面だけを厳密に追っていき、自分勝手な議論や解釈をすることを意味します。方針の意図するところや精神に準じていない、方針への解釈、訴求(見解の主張)、行為は無効です。

なにか、悶えているような感じがあって、こういっては悪いけれども、ほほえましい。

「Wikipedia:ウィキペディアは何ではないか」という、秀逸なレトリックの項目では、

  1.1 ウィキペディアは紙製の百科事典ではありません
からはじまり、
  2.1 ウィキペディアは辞書ではありません
  2.2 ウィキペディアは独自の考えを発表する場ではありません
  2.3 ウィキペディアは演説台ではありません
等々

17項目にわたって、Wikipediaが何でないか、ということが詳細に述べられています。そのページの最後に書かれているのは、それら17項目のきわめて正確な位置づけです。

よからぬ考えは他にもいくらでもあるでしょうが、ウィキペディアはそのいずれにも当てはまりません。誰かが思いつくかもしれないよからぬことすべてを予期し、先手を打っておくことはできません。このページに書かれていることのほぼすべては、思いも寄らなかった新しいよからぬことを誰かが思いついて実行してしまったがために、ここに書かれたものです。・・・

即時削除

削除対象となった項目の執筆者に対する丁寧なメッセージもあります。

Wikipedia:即時削除
さっき作ったばかりのページからここへ来られたのでしたら、そのページは間もなく削除されます。そして、ウィキペディアへようこそ。決してあなたへの意地悪などで削除するわけではありません。実際、あなたがウィキペディアに何か書いたということは非常にうれしいことなのです。ただ、あなたの書いたものが百科事典とするには少しばかりふさわしくなかった、ということをご理解ください。もしテストで書き込みをされたのでしたら、次はぜひ記事を書いてみてください。またサンドボックスやあなたのユーザーページでご自由にテストを続けてください。
テストでなく書いたのでしたら、あなたの書いたものが即時削除の対象だったということになります。そのときはスタブを読んでいただければ、削除されない記事を書けるようになるでしょう。

賛否はあるでしょうが、この冷静さは見習いたいものですね。「即時削除」といわれたら、たいていの人は頭にくるでしょうが、このメッセージに触れればすこしは気を取り直すのではないでしょうか。

削除依頼に対する議論

削除依頼に対する議論も盛んです。
「カテゴリ「削除依頼中のページ」にあるページ」という項目があって、これがなかなかおもしろい。

たとえば

「高校野球選手権大阪大会のデータベース」の5項目について、削除依頼が出され、削除か存続かの議論がされています。
記事を見ると、各回の勝敗が点数とともに列挙されているだけで、たしかに首をひねる内容ではある。
「ただの結果の羅列」であり、「特筆すべき内容が記載されていない過剰な細分化」であり、単なるデータベースに過ぎない、というのが削除の理由。
これに対して、これから「記事内容の充実を図っていきたい」という執筆者の意見があるものの、「百科辞典的な記事に成長する見込みが立たない」といった削除賛成意見が多数述べられていて、執筆者側の分が悪い。
すごいのは、これらの議論が、およそ6000字にも及んでいることです。
その後再見してみると、これらのページは削除され、「高校野球選手権大阪大会」に統合されていました。

「ウイグル」は14000字に迫る、名称、歴史から文化、宗教に言及した力作ですが、他の項目からのコピペが多いとして著作権侵害が指摘され、同じく削除の可否が審議されています。
この内容自体に対する議論(ノートページ)では、実に32000字におよぶさまざまな要求や回答が寄せられているのですが、著作権侵害を理由とした削除依頼のページでは、この項目の編集履歴が細かく追跡され、本文で表示されていない転記状況と元著作者の情報が一覧として整理されたうえで、さらに著作者ページのノート上で23000字の議論が交わされています。ものすごいエネルギーです。

およそ2600字で記載された「射精」の項目に対しては、刑法175条に反する可能性がある画像について(アメリカのサイトへのリンクなのですが)、適否の議論が総勢24名を巻き込み、27000字に及んで展開されています。
これを読んでいるだけで、猥褻とはなにか、外国に置かれたサーバ上の、国内法では違法な内容にリンクを張った場合、それが犯罪となるのかどうか、といったことへの建設的な疑問をもつことができます。

ちなみに「あまちゃんロス症候群」の項目についても、侃々諤々の議論がなされていました。
「百科事典に記載するほどの著名性・特筆性がない記事」、「一過的な報道に過ぎない事象を扱った記事」、というのが削除側の理由。後日再見すると、この項目が削除されていたのが、実際にその症候群にとりつかれている身としては、ちょっと残念です。

以上

以上は、散歩の途中でたまたまランダムに見たページ。ああ、おもしろかった。
たとえていえば、いつもラグーンにボートを浮かべて遊んでいたのが、思いついてダイビングしてみたら、サンゴ礁の生態系の多様さと豊穣さに目がくらんだ、といった感じの体験でした。

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