2011年3月11日以降、この日本の国で、ふつうに暮らすふつうの人間として、原子力発電にどういう態度をとればよいのか、という慣れない疑問をもたざるを得ないこととなった。
ふつうに暮らすというのは、こういうことである。
よいことも、ちょっといけないことも、思わずいろいろとやってしまうが、できれば人に迷惑をかけないで、自分の楽しみをみつけながら、大上段なことは誰かにまかせて平和な日常を送る。
まあ、いわゆる小市民の暮らしですね。
ふつうの人間というのは、こういうことである。
つまり、原子力の専門的な知識をもたず、原子力技術の発展や電力の安定供給に対する社会的な責務を感じているわけでもなく、したがってそのような責務にもとづく尊敬を得ているわけでも、社会的報酬を得ているわけでもない人間ということだ。
いいかえれば、原子力がなくても、個人的な人生設計にいささかも影響しない人間である。ただし、原子力を失うことのリスクが、自分をとりまくマクロな環境から大きな外部不経済を招き、それがわたしの暮らしに跳ね返ってくるようでは困るな、という程度の他人事のような問題意識はもっている。
美しくいえば、しゃかりきに原発推進を啓蒙するような動機もなく、原発反対を叫ぶような材料ももっていない、いまのところ中立的な人間、ということもできる。
まあ、いわゆる気楽な好々爺ですね。
さて、そういうふうな小市民の好々爺が、原発に対してどういう態度をもてばよろしいのかという疑問をもって、できるだけ感情的でなく、できるだけ思考停止をしないようにしながら、いろいろな書物に接してみた。接してみたところ、混迷はより深くなったといわざるを得ない。
その混迷とは、原子力発電が是か非かがよくわからなくなった、ということではなく、こんなに明々白々いけないことなのに、なぜ推進する勢力があるのか、という驚きによる混迷である。
わたしは、ジャーナリストの素養もなく、取材のチャンスを得られる立場でもないので、いわゆる「原子力むら」のダイナミクスについて確かめようもない。
だから、この想像もつかない内容について、より立ち入って追求することはできないが、その前の「明々白々いけないこと」だということがわかっただけでも大きな収穫であった。
このあと、そのことについてつらつらと覚書を書いておこうと思う。
いろいろな書物に接してみた、その主なものを参考に列挙。
原水爆実験 | 武谷三男 | 岩波新書 | 1957/08 |
原子力発電 | 武谷三男 | 岩波新書 | 1976/02 |
原子力戦争 | 田原総一郎 | 筑摩書房 | 1976/07 |
東京に原発を | 広瀬隆 | 集英社 | 1987/05 |
危険な話 チェルノブイリと日本の運命 | 広瀬隆 | 新潮文庫 | 1989/04 |
原子力神話からの解放 日本を滅ぼす九つの呪縛 | 高木仁三郎 | 光文社 | 2000/08 |
パンドラの箱の悪魔 | 広瀬隆 | 文春文庫 | 2004/03 |
E=mc2 世界一有名な方程式の「伝記」 | デイヴィッド・ボダニス(伊藤文英・高橋知子・吉田三知世訳) | 早川書房 | 2005/06 |
CO2温暖化説は間違っている | 槌田敦 | ほたる出版 | 2007/04 |
文明の災禍 | 内山節 | 新潮社 | 2011/09 |
原発と権力 戦後から辿る支配者の系譜 | 山岡淳一郎 | ちくま新書 | 2011/09 |
人間と放射線 医療用X線から原発まで | ジョン・W・ゴフマン(今中哲二ほか訳) | 明石書店 | 2011/09 |
福島の原発事故をめぐって いくつか学び考えたこと | 山本義隆 | みすず書房 | 2011/10 |
エネルギー危機からの脱出 | 枝廣淳子 | 講談社+α文庫 | 2011/11 |
放射能と子ども達 | 碓井静照 | ガリバープロダクツ | 2012/01 |
国を滅ぼす反原発ヒステリー 世界から見た日本の錯誤 | 一本松幹雄 | エネルギーフォーラム新書 | 2012/02 |
「反原発」の不都合な真実 | 藤沢数希 | 新潮社 | 2012/02 |
電力改革 エネルギー政策の歴史的転換 | 橘川武郎 | 講談社現代新書 | 2012/02 |
放射性物質の正体 | 山田克哉 | PHPサイエンス・ワールド新書 | 2012/02 |
放射性廃棄物の憂鬱 | 楠戸伊緒里 | 祥伝社 | 2012/03 |
日本は世界一の環境エネルギー大国 | 平沼光 | 講談社+α新書 | 2012/03 |
原発と原爆 「日・米・英」核武装の暗闘 | 有馬哲夫 | 文藝春秋 | 2012/08 |
東海村・村長の「脱原発」論 | 村上達也・神保哲生 | 集英社新書 | 2013/08 |
原発事故と放射線のリスク学 | 中西準子 | 日本評論社 | 2014/03 |
原発文化人50人斬り | 佐高信 | 光文社知恵の森文庫 | 2014/08 |
日米<核>同盟 原爆、核の傘、フクシマ | 太田昌克 | 岩波新書 | 2014/08 |
原発とどう向き合うか 科学者たちの対話2011~’14 | 澤田哲生編 | 新潮社 | 2014/08 |
日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか | 矢部宏治 | 集英社インターナショナル | 2014/10 |
ミリタリーテクノロジーの物理学<核兵器> | 多田将 | イースト新書 | 2015/07 |
科学者は戦争で何をしたか | 益川敏英 | 集英社新書 | 2015/09 |
原発プロパガンダ | 本間龍 | 岩波新書 | 2016/04 |