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収入印紙の怪

収入印紙を、領収書や契約書などに貼って印紙税を納入するという仕組みは、なるほどよく考えられた仕組みだなと思う。
しかし、たとえば法務局の手数料とか、運転免許証の更新の手数料とかを支払うのに、収入印紙を購入しなければならないというのは、考えてみれば不思議な手順である。

なぜクレジットカードや電子マネーで支払えないのか、どなたか説明してほしい。役所がそこまで手間をかけて国民の利便を図るのは、高望みすぎるとしても、窓口で現金を手渡せばすむはずだと、わたしなどは思う。ところが、どういうわけか別の窓口で所定の収入印紙を購入して申請書などに添付するという手間をかけないと受け付けてもらえない。
その別の窓口は、法務協会であったり、交通安全協会であったり、要するに外部委託された団体の設けた窓口である。当然販売手数料がその団体に支払われ、それぞれ「登記・戸籍・供託・成年後見等、民事法務の制度に関し、その発展と円滑な運営に寄与する」ため、あるいは「交通の危険防止のため交通道徳の普及高揚を図り、もって交通秩序の確立と交通安全の実現に寄与する」ための事業を行う財源の一部となっているらしい。

こういった財源をひねり出すために、わざわざ煩雑な手順を設けているとしたら、これはもう本末転倒ではないか。そもそも、これらの団体が長年にわたって収入印紙販売業務を独占的に受託すること自体がおかしい。
交通安全協会については、免許更新業務全体へのさらに深い関与や、協会費の使途の80%が給与であること、啓発事業などの効果への疑問など、多くの問題点がさまざまに指摘されているが、一向に改善される気配は見えない。

これらの業務の共通点は、国民の日常から少し離れたところにあって、日頃は隠されているということと、手続き自体を拒否するとこちらに甚だしい不利益が生じる、ということである。運転免許の更新は数年に一度であるし、登記事務を含めて法務手続きなどはそれほど頻繁に機会があるわけではなく、あったとしても専門家に委任することが一般的だ。

こういう世界は、収入印紙のほかにも限りなくある。たとえば、官報への掲載などはわたしの経験でいえばすさまじい。一度試してみられると、歯が折れるほど歯ぎしりする思いを経験できると思う。商法が改正されて電子公告を定款で選択できることとなり、この官報掲載のすさまじさから逃れられるかと思ったら、「電子公告調査機関」というのが出てきて、高額の調査手数料を支払ってそこを通さないと無効となる、という実に巧妙な仕掛けが用意されていた。

成人識別ICカード「タスポ」のシステムは2008年に900億円かけて導入された。タスポは一般社団法人日本たばこ協会などが運営しているが、その導入の背景と効果に対する疑問などがあれこれ言われているにもかかわらず、登録料などがかからず自動更新、しかも喫煙人口が18%(2018年)ということもあって、なんとなく看過されている感がある。

なぜこういうことが問題にされないのか、とても不思議だ。問題にされないからには、自分の理解が違っている可能性があるからかもしれない、と、みんなが思って口にしないのではないか。めったにないことでもあり、普通の感覚で駄々をこねても面倒なので、そのまま素通りしてしまうことで温存されてしまっている。

こういう複雑な官僚独裁による“くすね構造”をすっきりと解消するというのが。かつての小泉政権以来の構造改革というものの重要な部分ではないかと、期待していたのだが、まったく手を付けられた気配がないのは残念至極である。

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